学長コラム|「アメリカ大統領選とトランプの悪行」

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みなさん、こんにちは。
新緑が爽やかな5月からスタートする学長コラム「ニュースを読む、時代を読み解く」では、国際政治経済から柔らかネタまで気になるテーマを取り上げていきます。

初回は、ずばり「アメリカ大統領選とトランプの悪行」
つい長くなってしまいましたが最後までお読みいただければ幸いです。


■注目のアメリカ大統領選


日本では「もしトラ」とか「ほぼトラ」とか先走った予想で喧しいが、米大統領選挙の行方はじつは終盤にならないと分からない。
なぜなら大半の州は伝統的に共和党と民主党の色分けが決まっていて、勝敗を左右するのは「スウィング・ステート」と呼ばれるフロリダやオハイオ、ペンシルバニアなどの激戦州の結果にかかっているからだ。

自由と民主主義の旗手を標榜する先進国アメリカだが、大統領選挙となると極めて非民主主義的で旧態依然としている。
白人エリートが政治を独占していた開拓時代の伝統的陣取りゲームが今も繰り広げられているのだ。
共和党が勝った州は赤色、民主党が勝利した州は青色といった具合だ。

しかも大半の州が最多得票の候補が人口比で各州に割り当てられた選挙人(538人)を全て獲得する「勝者総取り方式」を採用している。
最終的には選挙人の過半数270人以上の票を獲得した候補が大統領に選ばれるのだ。

つまり一般有権者の投票で多数票を獲得した候補が選ばれるとは限らない甚だ民主的とは言えない制度である。

だから2016年の大統領選で民主党のヒラリー・クリントン候補に一般投票で286万票も負けていたトランプが306人の選挙人を獲得して大統領に選ばれてしまう。
実際、一般投票で最高得票を得られなかった候補が当選した大統領選はこれまで4回もあった。

 

■非民主的な選挙制度の実態


この矛盾に満ちたややこしい間接選挙制度は1787年に合衆国憲法が制定されたときに始まったものだ。
当時はテレビやラジオのようなマスコミもなく、一般の識字率も低くて大統領候補を知る術が無かった。
交通手段も未発達で広大なアメリカ全土で直接選挙をするのは難しかった。

そこで地域の名士や知識人を「選挙人」に選んで代理投票してもらうことにしたのだ。
その際に、ほとんどの州が州の結束と独立性を保つ目的で勝者総取り方式を採用。
州ごとにどちらかの党の大統領候補を選ぶため、さながらオセロのような陣取りゲームが展開されるようになった。

米国ではそんな非民主主義的制度が現在のインターネット時代でも存続しているのだ。
いい加減にそんなあほらしい制度は止めてしまえばいいと思うのだが、二大政党制を存続させたい民主共和両党とも制度変更するつもりはなさそうだ。
背景には長年の歴史的伝統、政治的利権や人種差別がある。

しかし、いくら民主的制度だと言い張っても、莫大な選挙資金をかき集める抜け目ない戦術がものをいうのが米大統領選の実態。
嘘とカネと脅しで学歴も名声も手に入れてきたトランプにとってはお得意の分野なのだ。


■被告人となった前大統領


そんな中、米国史上初の大統領経験者の刑事裁判が4月15日からニューヨーク州で始まった。
被告人はもちろん「これは政治的迫害だ!魔女狩りだ!」と叫び続けているトランプ前大統領。

罪状は、大統領選の投票日が目前に迫った2016年秋に不倫スキャンダルを隠すために元ポルノ女優に支払った口止め料13万ドルを巡って一族企業の業務記録を改ざんしたというもの。
計34の罪に問われている。

業務記録改ざんは通常ニューヨーク州では禁固1年未満の軽犯罪(misdemeanor)だ。
だが打倒トランプに執念を燃やす検察は前大統領が選挙法や税法にも抵触したとみて重罪(felony)に問えると判断した。
つまり、2016年大統領選中に自分に不利な情報を有権者から隠したのは選挙法違反で重罪だというわけだ。
その場合の最高刑は1件につき禁固4年となる。

「不倫口止め料」と聞くといかにも軽い響きだが、その支払いを担当したフィクサーで「闘犬」と恐れられたトランプの元顧問弁護士マイケル・コーエンは2018年に選挙資金法違反や脱税を含む複数の罪状を認めて有罪判決を受け、禁固3年の刑期を終えている。
自分を助けてくれると信じていた前大統領に裏切られたコーエンは怒りに燃えて検察側の証人として法廷に立つ。
さながら法廷ドラマのようだ。

トランプはさらに3つの刑事事件でも起訴されている。
2000年の大統領選でジョージア州開票集計作業への介入、在任中の機密文書の隠匿・破壊、そして司法省が最も力を入れている2021年1月に起きた連邦議会襲撃事件の扇動だ。
トランプは裁判日程が大統領選の選挙運動を妨害しているなどと難癖をつけ、すべての裁判の選挙後まで延期させようとしてきた。
しかしニューヨーク地裁のホアン・マーシャン判事は法的根拠がないときっぱりと退け、ついに裁判開始となった。

お得意の引き延ばし作戦で大統領職に返り咲き、大統領特権を振りかざして起訴の取り下げを狙っていたトランプにとっては大誤算だ。


■裁判と選挙戦の行方は


米国「TIME」誌の記者時代からトランプの悪行を追ってきたジャーナリストのひとりとしては前大統領が有罪となれば喜ばしい限りだ。
だがまだ予断を許さない。

米国では起訴や有罪になっても立候補が可能だ。
合衆国憲法が大統領になる要件を①米国生まれ、②35歳以上、③14年以上居住の3つしか規定していないからだ。

暴君の落日となるか、それとも思わぬ逆転劇か。
あてにならない序盤の選挙戦予測はともかく、トランプ裁判の行方に注目しよう。


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