新学長&新研究科長就任記念 Web公開インタビュー

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2021年4月、副学長の藤原洋教授が学長に、小林英幸教授が研究科長に就任。

これを記念して5月12日に上田亮子准教授がインタビュアーとなり、公開オンラインインタービューを開催しました。インタビューでは、両教授のこれまでのビジネスパーソンとしての歩みや教育に対する思い、本学の将来像など、幅広い話を聞くことができました。

>>小林英幸 研究科長・教授のプロフィール
>>上田亮子 准教授のプロフィール


ベンチャースピリットに触れたことが起業家を志すきっかけとなった

上田 まずは今年度、学長に就任された藤原先生にご質問です。本学には起業家を目指している学生が多いのですが、先生ご自身はなぜ起業家を志すことになられたのでしょうか。

藤原 パソコンの神様と言われたアスキーの創業者、西和彦さんの下で働き、ベンチャースピリットに触れたことがきっかけです。1970年代後半、まだ20代の頃です。

藤原洋

それまで私は、日立エンジニアリングで制御用コンピュータの設計に携わっていました。当時のコンピュータは大きくて1台何億円もしました。そこに登場したのが、小さなシリコンチップの中に機能をパッケージした、たった数万円の8ビットのマイクロコンピュータ。コンピュータの世界に革命が起きたと確信しました。

その後、私はマイクロコンピュータを使ったコンピュータネットワークの制御装置「ローカルエリアネットワーク」の設計をして雑誌に取り上げられるなど、多少有名になっていました。そこにアスキーの副社長であり、マイクロソフトの副社長も兼ねていた西和彦さんから「会いたい」と連絡をいただきました。そのときに連れてこられたのがパソコンの神様ビル・ゲイツでした。

日本とアメリカを代表する起業家からアスキーへの転職のお誘いを受けて心が動き、20代後半から30代前半にかけてはアスキーの中で、ベンチャー企業の経営とはどういうものかを学ばせてもらいました。その頃から密かに思っていたのが、次にコンピュータの世界で、クリステンセン(ハーバードビジネススクール教授)が言うところの「破壊的なイノベーション」が起きたら起業しようということでした。だから1990年代半ばにインターネット革命が起きたときに、「今が起業をするべきときだ」と考えて会社を作ったのです。


「前例のないことにチャレンジする」ことを大切にしていきたい

上田 仮定の質問ですが、藤原先生が急に若返えったとして、これから起業をするならどんな分野で何をされますか。

上田亮子

藤原 起業は若くなくてもできるので、その仮定の質問に対する答えは「若返らなくても、やるときはやります!」(笑)。では何をやるか。社会ではDX革命が進行中。この動きは、あと10年は続くのでDX革命を担うベンチャー企業を興せば間違いなく成功する。ただしこれからの時代は一事業単体ではなく、オープンイノベーションで取り組む必要があるので競争力より協調力のほうが重要でしょう。

上田 藤原先生は起業家であると同時に、研究者であり教育者でもあります。それぞれのお立場として大切にされていることは何でしょうか。

藤原 大切にしていることは1つだけ。「前例のないことにチャレンジする」です。前例のあることに取り組むなら起業の必要はない。大企業でやればいい。私の友人の青色LEDの研究でノーベル物理学賞を受賞した天野浩さんがやってこられたのは「前例のないことにチャレンジする」ことだけでした。その結果がノーベル賞だったのです。

教育者として学生に伝えたいのも「前例のないことにチャレンジしてください」ということです。チャレンジには失敗がつきものなので、教育者は失敗を許容する度量が大事です。そのうえで学生には失敗した理由をちゃんと分析させて次に活かす。こうしたことが特に起業家教育では大切です。


不登校の中学生の家庭教師をしたことで教育のおもしろさに目覚める

上田 研究科長に就任されたこば先生は、長年トヨタ自動車で活躍してこられましたが、研究や教育の分野にも活動の幅を広げようと思われたのはどうしてでしょうか。

小林 今振り返ると「一番大きな理由」は、隣の家に住んでいた中学2年生のお嬢さんが夏休み明けから不登校になったことです。学校に通えない状態が続き、結局高校には進学できませんでした。

小林英幸

「これは見過せない」と、妻と分担してボランティアでそのお嬢さんの家庭教師をしました。本を読んだり話し相手になるところから始め、徐々に勉強を教えるようになりました。すると中2から高3までの5年間分の内容をみるみるうちに吸収し、高2の年齢で、高校卒業程度認定試験に合格。その後、広島大学の大学院まで進み、今は地方公務員として働かれています。

この経験を通じて、若い人が自ら道を切り開いていくことの素晴らしさを実感し、そこに関われたことも大きな喜びとなりました。久々に中学校や高校の勉強を追体験して私自身も学問に目覚めたというか、学ぶことのおもしろさを知り、名古屋商科大学大学院に入学しました。「教育の道に進もう」と思ったのは、このときの経験が大きいですね。


人の行動を扱う学問であることに気づくと「管理会計」は俄然おもしろくなる

上田 「管理会計」は、教科書を読むだけで眠くなってくるという方も多いと思います(笑)。「管理会計」を楽しく勉強するコツがありましたら、教えていただけませんでしょうか。

小林 会計は「数字を扱う学問」であると同時に「人の行動を扱う学問」でもあります。そのことに気がつくと、俄然、勉強がおもしろくなる。私が「管理会計」の授業で教科書にしている『現場が動き出す会計』(伊丹敬之、青木康晴著)は、人を中心に管理会計を語っている名著です。この本を読んで眠くなる人はまずいないと思います。

小林英幸

また私が「オペレーションズ・マネジメント」の授業の中で扱っているマネジメント・コントロール・システム(MCS)も、管理会計をもとに従業員に対して適切な行動を促していくためのシステムです。まさに人を扱っており、学生から「おもしろい」と言われることが多いですね。

上田 今後起業を目指している学生に対して、「会社の経営に管理会計をこんなふうに活かしてほしい」「こういう点には気をつけてほしい」ということがありましたら教えてください。

小林 管理会計は情報システムである以上に影響システムでもあります。人は測定されると、たとえ測定結果が未公表で人事評価に使わないとしても、他者からの評価の目を内在化して自分の行動を変えていく傾向があります。

だから「測定のし過ぎ」には気をつける必要がある。特にベンチャー企業のような少人数の組織は、経営者は測定する人、従業員は測定される人という関係ができると人間関係を壊しかねない危険があります。そこは十分に気をつけながら活用してほしい。


ポストコロナ時代をどう生きるべきか

上田 現在、新型コロナウイルスの流行が私たちの社会や生活に大きな影響を与えています。ポストコロナの時代を見据えて、今後、本学はどのような方向に向かうべきだとお考えでしょうか。

藤原 今後大切になるのは、組織も個人も社会の変化に、柔軟に対応できる生き方をすべきだということです。現在SDGsでも求められているサスティナブルな社会を実現するためには、組織にはサスティナブルな経営、個人にはサスティナブルな生き方が求められます。本学でもサスティナビリティについては、今後重要なテーマとして掘り下げていきたい。

小林 私は「ダイナミック・ケイパビリティ」がこれからの社会の重要なキーワードになると考えています。富士フイルムが、デジカメが普及していく中で、写真フィルムの技術を液晶保護フィルムや化粧品に転用することであざやかな転身を図ったのが「ダイナミック・ケイパビリティ」の典型例。自分たちのリソースを再構成して、環境変化にしなやかに対応していくという意味です。
 
SBIグループも本学も環境の変化に敏感で、ダイナミック・ケイパビリティを持つしなやかさを持っている。変化に対応できるトップランナーとして新しい時代を作っていきたいと考えています。


こば先生が研究科長になって一番得をするのは学生

上田 藤原先生は昨年度までは研究科長を務めておられて、今年度より、こば先生にバトンタッチをされました。前研究科長から新研究科長(こば先生)へのメッセージをぜひお願いできればと思います。

藤原 こば先生が研究科長になって一番得をするのは学生さんだと思います。先生は、世界に冠たるトヨタ自動車で鍛え上げられた経験をお持ちで、物事に非常に丁寧に厳密に取り組まれる方です。一方で融通も利く。学生にとっては厳しく鍛えられながらも、チャレンジできるという意味で二兎を追える。応援しております。

藤原洋

小林 今のお話でますますハードルが上がってしまいました(笑)。ご期待に背かないように精進いたします。よろしくお願いします。


SBI大学院大学をさらに発展させるために力を入れるべきこととは?

上田 最後にこば先生には新研究科長として、藤原先生には新学長として、これから本学をどのように発展させていきたいと考えているか、抱負をお聞かせ願えればと思います。

小林 本学の特徴は「経営に求められる人間学の探究」「テクノロジートレンドの研究と活用」「学びの集大成としての事業計画策定」の3つです。この3つに勝るものは他にはありませんから、基本的には今後もこれらのブラッシュアップを図っていこうと考えています。この3つについては、MBAプログラムを提供している他の大学院と比較しても遜色ないレベルに到達しています。「人間学の探究」については世界一だし、「テクノロジートレンド」についても藤原新学長の指導のもと、ますます充実していくでしょう。

唯一気になるのが、グローバルへの対応。本学の教育理念にもアドミッション・ポリシーにも学習目標にも「グローバル」というワードが入っていますが、グローバル教育に関する科目数は、全57科目のうち4科目だけ。グローバルビジネスの知見を備えた人材育成は社会的なニーズでもあるので、しっかりと強化を図っていきたいです。

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藤原 本学の特徴の1つは学生ファーストだと思う。大学の側から「これを学びなさい」と押し付けるのではなくて、何を学びたいのか学生のニーズを聞き、それに合ったカリキュラムの提供を重視してきました。今後も学生のニーズに応えられる大学院であり続けるためには、これまで以上に教職員と学生の距離を縮め、顔の見える関係になることが大切です。

また、こば先生もおっしゃったように、「人間学の探究」も変わらず大切にしなくてはいけないことです。特にリーダーとしての在り方、生き方を追究する際に不可欠です。「人間学の探究」を通じて、技術革新や社会の変化が激しい中でも浮き足立つことなく、冷静に現状や課題を見つめ、周りのメンバーを巻き込みながら強い責任感を持って問題解決に取り組める人材を育てていきたいと考えています。

また学長として今後変革していきたいことに「外部資金の獲得」が挙げられます。現在は授業料収入が大半を占めています。今後は教員及び学生と企業との共同研究や、科研費などの採択件数などを増やすことで、収入における外部資金比率を高めていきたい。すると本学自体の資金に余力が生まれ、その分、研究・教育活動のさらなる充実を図っていくことが可能になります。これはぜひ取り組みたいことですね。

上田 私たち教員も、お二人を支えながら本学の発展に貢献したいと思っております。藤原先生、こば先生、本日はありがとうございました。


【 後 書 】
今回のインタビューは在学生や修了生を対象に公開され、教員や事務局スタッフも含め約30人が参加した。参加者からの質問の時間も設けられ、こば先生のゼミの修了生から勉強の成果を交えた現状報告が行われるなど和気藹々とした一幕も。藤原学長と小林研究科長からは、普段の授業ではなかなか聞くことができないユニークなエピソードを聞くこともでき、参加者にとっても有意義な時間になったようだ。
(構成:長谷川敦)
2021年5月12日