学長祝辞 修了生の皆さまへ


SBI Graduate School

修了生のみなさんおめでとうございます。


本来であれば、修了式で皆さんに直接祝辞を述べるところですが、ご承知の通り、新型コロナウイルスの感染拡大防止に向け、人が密に集まって過ごすような空間を避けるよう、日本政府より要請が出ています。残念ですが今回は皆さんへの祝意を書面でお届けすることとしました。


今日話をしようと思うことは、これはいつも言うことですが、まず、皆さん方は今日修了式を迎えるにあたって、周りの方から様々な形で、「顕加と冥加」を受けていることに対して、感謝の気持ちを持つことが非常に大事だと思います。顕加というのは、自分が直接的にお世話になった人に対する「ありがとうございます」という気持ちです。冥加というのは隠れている、見えないけれども色々な人にお世話になっていることに対する感謝の気持ちです。仕事と両立させながら卒業するということは難しく、大変なことだろうと思います。
しかし、それを支える家族などのご支援に対して感謝をしていただきたいと思います。これが第一点目です。


第二点目に、卒業すると今まで教えてもらった先生ともしばらくお別れになり、切磋琢磨してきた友達ともお別れで、これから何を頼りにやっていったらいいかと考える人もいるかもしれません。
お釈迦様が亡くなる時、その十大弟子の中で一番末弟だったアーナンダという弟子がいました。他の弟子たちは皆悟りを開いたが、このアーナンダだけはまだ悟りを開いていなかったのです。だからお釈迦様の死を目前にして、「私は一体これからどうして生きていったらいいのでしょうか」とお釈迦様に尋ねました。お釈迦様は「自灯明・法灯明」と答えられました。自灯明というのは他人を頼りにせず自分を頼りにして生きなさいということです。法灯明というのは法即ち真理を頼りにしなさい、真理を寄る辺として生きなさいということです。こういうことをおっしゃられたと書物に書いてあります。


私はそれを若い頃に読んだときに、お釈迦様のこの教えは仏教では自我へのとらわれから解放された境地、即ち無我の状態になれと教えているのでは? それが、自分を頼るとはどういうことなのだろうと一種の概念的矛盾を感じました。
当時、浅学非才の身ですからよくわからなかったということです。そしてそのことについて、心の中にいつも秘めながら書物を読み考えるということをやってきました。そして結論は、そう言えばお釈迦様は心の三毒を絶てと言っている。三毒というのは非常にむさぼるような欲、“貪(とん)”と言われている。あるいは“瞋(じんまたはしん)”と言われる怒り。嫌いなものに対する激しい怒り・憎しみそういうものを“貪・瞋・痴(とん・じん・ち)”と言います。痴というのは愚かな知恵で、知識の知に病だれを付けた痴。あるいは疑問の疑に病だれを付けた癡。どちらの漢字も愚かという意味です。お釈迦様は貪瞋痴を自分から取り去り、その上で自分に頼り、頼れるような人間になれ、ということを言ったのだと最終的に私は理解しました。しかし私自身これらは今でもなかなか抜けません。一生努力をし続けていかねばならないということですね。


自灯明という、自分を頼りにするということとは、ちょっと違った観点で言うと、福沢諭吉の言葉として非常に有名な「独立自尊」ということと同じと考えられるのではと思います。独立というのはどういうことかというと、経済的に独立する、親の面倒をかけることはないと理解していると、これは大間違いです。それらを含めて、精神的自立をはかるということが非常に大事なことです。精神的自立というのは、正しい知識を身に付け、善悪の判断ができるようになり、精神的な自立を獲得していく、これが本当の意味で大事なことですね。 自尊とは何か? これは一言で言えば品格を保つということです。人間としての品格。我々はどんな場合においても、人間としての品格、これを保たないといけません。特に長になっている人は皆そうです。


現代経営学の創始者と言われるピーター・ドラッカーがどう言っていたかというと、経営者が学ばなければいけないことは簡単に勉強すれば身に付く。しかし、学んで身に付かないものがある。それは何かというと品性だ、と言っています。 人の上に立っていこうと、人を引っ張っていこうと思うと、品格なしに人は引っ張っていけない。皆さん方も起業を目指して、ここの大学院大学に入られて、そして勉強研鑚を積まれたのだろうと思います。一番大事なことは品格を身に付けていくということだと思います。それがさっき申し上げた貪瞋痴の世界と決別する、できるだけこれを減らしていく。そうすると、自ずとそこに品格や、人から尊敬されるような人格が出来てくるということではないかと私は思います。


いずれにしましても、本大学院大学で一定の学を身に付けたからこれで終わりではありません。学は死ぬまでやっていかないといけないことだと思います。その学というのは簡単に書物から専門的知識を身に付けるだけではなくて、皆さん方が学んだことを知行合一的に行動に移し、「世のため人のため」に自分が天から与えられた使命を果たす、そのための学位であるべきだと思います。
これからも研鑚を重ねて、ぜひ立派な起業をする、あるいはリーダーになれるように人徳を磨いていただきたいと思います。


簡単ですが私の挨拶と代えさせていただきます。

本日はおめでとうございました。


2020年3月28日
SBI大学院大学
学長 北尾 吉孝