野間先生金融ブログ

わが国の「アジアインフラ投資銀行」に対する立ち位置について

AIIB

 アジア開発銀行(ADB)は、本年2月末に公表の報告書で、2016~30年の間のアジアの開発途上地域のインフラ需要は総額で26兆ドル、年間では1.7兆ドルを超える、との予測値を発表した。これは、2009年に公表した予測値と比べ約2倍である。このように、膨大なインフラ需要がアジアの途上国には見込まれている中で、その存在感を増しているのが中国主導によるアジアインフラ投資銀行(AIIB)である。AIIBは、2015年に入ってG7の一画を占める英、独、仏までもが参加表明に転じたこともあり、同年12月25日に正式に発足した。そして、現時点(17年4月末)での加盟国数は70か国・地域と、日米が主導するADBの加盟国数(67か国・地域)を既に上回っている。
 こうした中で、主要国では、日本と米国のみがAIIBに対しては距離を置き、未加盟のままである。その理由は、「AIIBは公正なガバナンスの確保、環境や社会に対する影響への配慮、債務の持続可能性などの面で国際的に確立したスタンダードに基づくことが重要」、との認識で日米の両政府が一致しているからである。日本政府は2015年5月21日には、アジアのインフラ需要に応えるべく、ADBと連携した「質の高いインフラ投資」構想を提唱済みであるが、当然これは中国主導のAIIBを強く意識しつつ、日本流のイニシアティブのもと、グレードの高いインフラ整備に尽力して行こうとの意向を示すものである。
 上記のように、日米の両国政府がAIIBに距離を置いているのと対照的に、日米が主導するADBは、AIIBと親和的である。例えば、AIIBの初代総裁の金立群氏(中国人)はADBの前副総裁であり、また、2016年1月に開業したAIIBの第1号の案件は、ADBとの協調融資案件であった。これを、ODA用語上の「バイ(二国間援助」」と「マルチ(ADBなどの国際機関を通じた援助)」で表現すると、わが国はAIIBに対し、「バイ」では距離を置きつつ、「マルチ」の場では協調的、と表現し得るが、それが良く表れたのが、今月初旬に開催されたADB総会(横浜・第50回目)である。同総会では、日本政府を代表する麻生財務大臣は、「ADBが引き続きアジアでの中心的な役割を果たすべき」と述べるに止める一方、ADBの中尾総裁(財務省出身)は、「アジアの膨大なインフラ需要に対応するためにADBはAIIBとの連携を強化していく」姿勢を強調している。また、各国からも、ADBとAIIBが競り合うより両者の連携の求める声が多かった、と報じられている。
 AIIB自身は、「ドアは常に開かれている」として、日米両国に対しても繰り返し参加を呼び掛けている。これに関連し、一番気掛かりなのがトランプ政権発足後、予測が困難になった米国の動向である。米国は4月には中国に対する為替操作国の認定を見送ったばかりであるが、AIIBに関しても、日本を頭越しにする形で中国に急接近する可能性が捨てきれない。その結果、主要国の中で日本のみがAIIBの不参加国になってしまった場合、日本としては、それでも距離を置くスタンスを貫くべきなのか。非常な難問であるが、アジアのインフラ需要がどれほど膨大でも、インフラ整備では、「安かろう・悪かろう」、は絶対に許されない、と言うべきだ。そうであるならば、日本流のイニシアティブで提唱されている「質の高いインフラ投資」構想を着実に実現する形で、グレードの高いインフラ整備に貢献し続けて行けば良いと言えるのではないか。
 AIIBには、中国の習近平国家主席が提唱する「一帯一路」構想を金融面で支援するという、もう一つの顔があることも忘れてはならない。中国政府は同構想をテーマとした国際会議(「一帯一路国際協力ハイレベルフォーラム」)を、今月の14、15日に北京で開催予定である。しかしながら、中国が「一帯一路」を表看板とする限りは、真の国際協力や協調は難しい、と言わざるを得ないであろう。
       
野間修

【略歴】 
神戸大学法学部卒業。財務省(旧・大蔵省)に入省し、主に国際金融局にて、税・財政、金融検査官、米国経済、国際通貨基金(IMF)や国際収支、ODAなど、幅広い分野の実務に従事。シンガポール国立大学にて2年間の客員研究員も。財務省退職後は宮崎公立大学地域研究センター主任研究員に就任し、地域経済の研究に従事。地元ラジオ経済番組への定期出演や市民向けの金融セミナーの講師役も。
2017年3月、惜しまれながらSBI大学院大学を退官。大学創立メンバーの一人で、在任時は「国際金融論」「金融概論」を担当し、最新の講義データと優しい物腰で多くのファンを持つ。
大学1年の時、武道館コンサートに行き、リバプールに三回訪問するなど、長年のビートルズマニア。
野間先生