野間先生金融ブログ

仮想通貨も数十年後、『ザ・ビートルズ』の高みに達しているか?

仮想通貨
  仮想通貨のことが広く世間で知られるきっかけとなったのは、2014年のマウントゴックス事件(ビットコインと顧客預り金の巨額流出)ですが、本年1月にもコインチェック社の仮想通貨「NEM」を巡り580億円という巨額の流出事件が発生しました。報道陣の前で深々と頭を下げるコインチェック社の社長(CEO)の横顔を見ると、未成年者かと思えるほどの若者であり、若者の風貌には似合わない流出額の桁外れの大きさに、私まで慄然としました。同社はその後4月6日に、インターネット証券大手であるマネックスグループへの傘下入りが報じられました。仮想通貨の失地回復を目指して指名された新社長は証券・金融界での経験が豊かな52歳のベテラン、とのことであり、部外者である私にもどことなく安心感が漂って参ります。
  上記のような仮想通貨を巡るトラブルの関係者(加害者と被害者)は圧倒的に若者層です。私自身、大学後輩のある若者からビットコインを知っているかを問われ、初耳だと答えたのが7年ほど前のことでした。しかし、金融・マネー学の担当教員として仮想通貨が分からないでは当然済まず、そこで日経や金融誌などで仮想通貨の仕組みを理解しようと努めてきたつもりです。しかしながら、「仮想通貨とは、インターネット上のブロックチェーン(分散型台帳)を基幹技術とした・・・・・」との入門者向け説明文を何回、どころか何十回読んでも「分かった」感が得られないままです。私のようなデジタル弱者の中高年では、仮想通貨など根っこのところで理解困難であり、敬遠したくなるのも当然かもしれません。その一方で、ネット社会で生まれ育ち、デジタルやプログラミングに土地勘を持つ若者世代なら、ビットコインなどの仮想通貨にも親和性があり、容易に飛びつけるのでしょう。
  このように、若者には支持される一方で中高年には敬遠される存在として仮想通貨を考えた場合、デビュー当時のあのビートルズと同じなのではないか、というのが私の最近の実感です。長年にわたるビートルズマニアの私は、高1の最後の頃だった彼らのデビュー当時をリアルタイムで記憶しております。そこで彼らのデビュー当時を振り返ってみましょう。ロックグループとしての彼らは、当時の若者たちの間では凄まじい勢いでスターダムにのし上がって行きました。しかしながら、彼らに熱狂したのは若者たちのみであり、大人たち(中高年)の評判は決して良いものではありませんでした。彼らは武道館コンサート(私も5万人の観客の一人)のために1966年6月末に来日したのですが、会場が武道館に決まる前には、あんな不良の4人組にわが国の武道館を汚されてたまるか、との世論が沸き起こりました。それでも、たまたまですが彼らの来日の8カ月前に母国で女王陛下より勲章を授与されたという事実が決め手となって、武道館コンサートが実現しました。勲章とは言っても、実は英国の勲章の中では最下級のものであり、大勢の叙勲者の中にはビートルズと一緒ではかなわないと叙勲を返上する人々が863人も出た、とのエピソードが残っています。そんな彼らですが、その名声は1970年に解散して以降、むしろ高まりました。NYフィルの著名な常任指揮者であったレナード・バーンスタインに、「ビートルズは20世紀最高のメロディメーカーである」と評価されるようになり、国内でもビートルズが中学生の音楽や英語の教科書に登場するようになりました。
  そして、デビューから55年を経た今日、ビートルズは20世紀を代表するミュージシャンとしての地位を確立しております。その楽曲がクラシックと言える領域にまで高まったビートルズを、「西欧音楽の3B」であるバッハ、ベートーベン、ブラームスに並べて、「4番目のB」とも呼ぶ人々もいます。私にはビッグデータの専門家たちにぜひ実施して頂きたい作業があります。それは、地球上で流れている全てのメロディ(作者不詳を除き)を作曲家別に分けた調査です。ひょっとしたら、ビートルズがNo.1の有力候補ではないでしょうか。不断の日常生活の中に何気なく流れているBGMにもビートルズが頻繁に使われています。例えば、イトーヨーカドーに行くと時折、”Help”が流れており、私はその都度、聞き入ってしまいます(ネットには、”Help”はレジ混雑時の従業員の応援要請のため、と書いてありました)。
  このようにして、ビートルズは今や『ザ・ビートルズ』です。つまり、スタンダード・ナンバーとして世界中で日々流れており、英和辞典にも載る存在となりました。それでは、本題に戻り、今は何かと問題の多い仮想通貨も数10年後には、『ザ・ビートルズ』と同じ高みに立っているのでしょうか。仮に仮想通貨も通貨の世界でのグローバル・スタンダードとなるとして、それまでに解決すべき難問が多々あることは、私でも想像が可能です。例えば、仮想通貨も通貨だと言うのなら、通貨として持つべき交換機能、価値貯蔵機能、及び価値尺度機能の3つの役割をどう持たせられるのか、中央銀行のコントロールの埒外にある仮想通貨の信用をだれが守り、どうやってその価値の乱高下を防止するのか、中央銀行は金融政策をどのように運営するのか、1000種以上もあると言う仮想通貨のうちどれがスタンダードとして生き残るのか、等々です。
  それでも、仮想通貨を巡って近年起きている上記のような事件、及び様々な出来事 ――― 例えば、昨年4月の改正資金決済法の施行と仮想通貨交換業者への登録制の導入(世界初)、金融庁による登録業者やみなし業務への立入り検査や行政処分(業務改善命令や業務停止命令)、つい先日(4月23日)の「日本仮想通貨交換業協会」の発足(従来の2つの業界団体の統一)、など ――― は、仮想通貨が今後、人々により広く受け入れられる存在になるための試行錯誤の一つかもしれません。あのビートルズも、デビュー当時のロックンロールから後期のクラシックと言える名曲に至るまで、急速にその音楽性を高めました。わずか8年の活動期間は、天才的な4人組による様々な試行錯誤と進化の8年間であったと言えます。仮想通貨も今後、どのような進化とイノベーションを遂げて行くのでしょうか。進化中なのは、仮想通貨だけではありません。私たちの日常生活に直結している金融・決済・流通の世界全体には、フィンテックやAI、IOTは言うに及ばず、高額紙幣廃止の議論やキャッシュレス化の推進、スマホ決済、無人コンビニなど、大変革の波が押し寄せつつあります。こうした中で、仮想通貨が数十年後にはどんな形に進化を遂げているのか私には全く、予想すらできませんが、様々な試行錯誤とイノベーションを経て、仮想通貨が『ザ・ビートルズ』の高みに立っているのかもしれません。
  一つだけ、私が確信を持って言えることがあります。それは、ビットコイン等の仮想通貨を怪しいもの、又は危険なものとして頭から否定してかかるべきではない、ということです。これに関連しますが、SBI大学院大学のある自主勉強会で、いずれかの仮想通貨を持っているかをリーダーが参加者に尋ねたところ、ほぼ全員が持っていると答えたそうです。私はこのことを素晴らしいと思います。持てる財産の全てを仮想通貨に投資するのは論外でしょうが、仮想通貨の持つ潜在的な魅力に早くから注目してそれに備えておく、そのために少額でも良いから仮想通貨の形で資産を保有してみる(仮想通貨でのポジションを持ってみる)ということは、社会人として極めて真っ当な姿勢だ、と私は思うのです。お金(虎の子)と子育ては似ている、というのが私の持論です。お金を大事にしようとするあまり、箱入り息子(娘)よろしく超安全な現・預金のみでキープする限り、虎の子(息子)が世間の荒波にさらされつつ大きく育つことは期待できません。虎の子の一部を仮想通貨に投じたとすると、価格の乱高下にさらされハラハラドキドキを免れませんが、勉強にはなります。仮想通貨の専門家は「仮想通貨とブロックチェーンとを切り離して考えるべき」と説きます。こうした説明も、自身で仮想通貨を持ってこそ、「なるほど」感が得られるのかもしれません。私自身も近日中に、ポケットマネーの範囲でいずれかの仮想通貨を買おう、と決めております。
野間修

【略歴】 
神戸大学法学部卒業。財務省(旧・大蔵省)に入省し、主に国際金融局にて、税・財政、金融検査官、米国経済、国際通貨基金(IMF)や国際収支、ODAなど、幅広い分野の実務に従事。シンガポール国立大学にて2年間の客員研究員も。財務省退職後は宮崎公立大学地域研究センター主任研究員に就任し、地域経済の研究に従事。地元ラジオ経済番組への定期出演や市民向けの金融セミナーの講師役も。
2017年3月、惜しまれながらSBI大学院大学を退官。大学創立メンバーの一人で、在任時は「国際金融論」「金融概論」を担当し、最新の講義データと優しい物腰で多くのファンを持つ。
大学1年の時、武道館コンサートに行き、リバプールに三回訪問するなど、長年のビートルズマニア。
野間先生