野間先生金融ブログ

ラスベガスでの銃乱射事件から想うこと(日米の両国ともに問われている「国の形」)

財政
  米国で、今回はラスベガスを舞台にまたまた悲惨な銃乱射事件が起きた。死傷者数で史上最悪とのことであり、命を亡くされた人々のことを思うと痛恨の極みである。銃保持の容認を党是とし、全米ライフル協会を有力な支持母体としている共和党のトランプ政権は、今回の事件で銃規制の方向に傾くのだろうか。銃規制は、米国の世論を分断する問題であるが、米国の歴史を見ると西部開拓時代には、開拓民にとって「自分の身は銃で自衛する」が当たり前だったに違いない。西部劇映画でお馴染みのこの時代、広大な開拓地には「お上」の体現者である保安官(警察官)が身近にいるはずもない社会だったことが容易に想像できるからである。
  ここで太古の昔からの社会の成り立ちを想像してみたい。太古の昔は、無法者の蛮行に対し人々は何らかの武器を携えて自衛するしかなかったが、やがて各地域内には、人々から税金や年貢などを集め、その対価として人々に地域の治安を保証する権力者(為政者)が出現するようになった。この権力者(為政者)たちの発展した姿が今日の「国」(「お上」)である。そして、彼らこそが古典派経済学で言う「夜警国家」の原形である。ところが、米国での西部開拓の時代は、太古の昔と同様の、「夜警国家」成立以前の社会だったと言えよう。こうした歴史を持つ米国社会の中に、「お上」に頼らず自分の身は自ら銃で守るべき、と考える人々が今も大勢いることは想像に難くない。
  上記の古典派経済学や夜警国家論であるが、「財政の意義」や「財政の機能」を学ぶことで体系的な理解が進み易くなる、と筆者は考える。財政学で紹介されている財政の機能は以下の3である。
(1)資源配分の調整機能(=公共サービスの提供機能) ――― 仮に、いくら「小さい政府」が好ましいとしても、人々が夜枕を高くして眠ることができるように、政府の最低限度の仕事として、警察や消防、軍隊だけは必要である。従って、財政の役割として、人々から最低限度の税金を集めた上で、公共サービス(防犯や消防、国防)の提供を行なうこととする。これが、「小さな政府」を信条とする古典派経済学の「夜警国家論」。 
(2)所得の再配分機能 ――― 世の中は、放っておくと、金持ちは益々金持ちに、貧乏人は益々貧乏人になるばかりである。そこで、政府が財政の機能を通じて、貧富格差を是正しようとするもの。財政の中の歳入面(税制)では、相続税が典型。所得税も、累進税率によって金持ちから多くを徴収する。歳出面では、生活保護が典型。
(3)経済(景気)の安定化機能 ――― 以下の①と②の2つがある。
①自動的安定化機能(ビルトイン・スタビライーザー) ――― 法人税や所得税は、所得に対して課税される。従って、好景気で所得が多い時には税金も沢山とられて可処分所得が減るので、景気の過熱が抑えられる。一方、不況で所得も少ない時には税金も少なくてすむので、可処分所得の落ち込みが緩和され、景気の落ち込みも和らげられる。このように、法人税や所得税には、あらかじめビルトインされた景気安定化機能が備わっている。
②裁量的な財政政策(フィスカル・ポリシー) ――― 不況期には、家計も企業もみな縮こまって節約やリストラに走り、誰もお金を使わなくなる。個々の家計や企業としては、それは極めて理に適った行動であるが、その結果、全体としてはますます不況が酷くなるばかりである(「合成の誤謬(ごびゅう)」)。こうした局面では、公共部門こそが、赤字覚悟で大型公共事業を大胆に実施してお金を使うことにより、不況から立ち直りのきっかけをつかむべきである、とする。そして、これが、ケインズ経済学が唱える公共部門による不況対策としての「財政政策(財政出動)」そのもの。バブル崩壊後のわが国、及びリーマンショック後の世界各国が、不況からの立ち直りを目指して実施してきた政策であり、「大きな政府」に繋がるもの。 

  上記の記述の通り、古典派経済学は「小さな政府」、ケインズ経済学は「大きな政府」である。では、この観点から見たわが国の財政の現状はどうか。わが国は、バブル崩壊後の長期にわたるデフレと景気低迷から脱却すべく、本来的には、「小さな政府」が党是であるはずの自民党政権の下でさえも、ケインズ的な財政出動を繰り返してきた。そしてその結果、わが国は先進国の中で最悪の財政状況にある。そこで、政府は「プライマリー・バランス」の2020年度までの黒字化目標を掲げるなどの努力を重ねてきてはいるが、一向に財政状況改善の兆しが見えない。その一方で、わが国の将来を見ると、少子高齢化は待ったなしで進行しており、「静かなる有事」が進んでいるとの強い警鐘を鳴らす識者もいる。そうなると、財政もいよいよ危機的な状況に陥ることが必然である。
  そうした中で、今月22日には衆議院選挙であるが、自民党の選挙公約では、消費税率引上げによる税収増の一部を教育支援に充当することを掲げている。米国での銃規制の問題も、わが国の消費税率の引上げや増収分の使い道に関する議論も、「小さな政府」か「大きな政府」かを巡る政治的な判断、つまりは、「国の形」を巡る決断の問題に帰着するように思う。米国(共和党)も日本(自民党)も、現政権は古典派的な「小さな政府」を信条とする保守政権である。米国では、ラスベガスでの事件を受けてトランプ政権がどう動くのか。また日本では、近日中の衆院選の結果がどう出るのか、また、消費税率の引き上げが実現するのか。日米の両国ともに、「国の形」が問われている、と言えよう。
野間修

【略歴】 
神戸大学法学部卒業。財務省(旧・大蔵省)に入省し、主に国際金融局にて、税・財政、金融検査官、米国経済、国際通貨基金(IMF)や国際収支、ODAなど、幅広い分野の実務に従事。シンガポール国立大学にて2年間の客員研究員も。財務省退職後は宮崎公立大学地域研究センター主任研究員に就任し、地域経済の研究に従事。地元ラジオ経済番組への定期出演や市民向けの金融セミナーの講師役も。
2017年3月、惜しまれながらSBI大学院大学を退官。大学創立メンバーの一人で、在任時は「国際金融論」「金融概論」を担当し、最新の講義データと優しい物腰で多くのファンを持つ。
大学1年の時、武道館コンサートに行き、リバプールに三回訪問するなど、長年のビートルズマニア。
野間先生