野間先生金融ブログ

「一人当たり名目GDP」から見た中国の国民の豊かさについて

GDP・中国
 中国経済は、鄧小平氏が主導した「改革・解放」路線が奏功して、1980年代初頭より、わが国の高度成長期並みの高度成長を続けてきた。しかし、近年では陰りが見えて、成長率(実質GDPの伸び率)は1桁台に低下するとともに漸減傾向にある。それでも、IMF(国際通貨基金)が7月24日に発表した「世界経済見通し」によると、中国に関しては本年が6.7%、来年が6.4%であり、1~2%程度の低成長率に止まる日本や米国などの先進諸国と比べると、中国はなお十分に高い成長軌道を維持している、と言えよう。
 このようにして、長年にわたり高度成長を遂げてきた中国であるが、一人一人の国民も豊かになり生活水準を向上させてきたと言えるだろうか。この国民の豊かさや生活水準を国際比較する上で手掛かりとなるデータの代表格が、「各国の一人当たり名目GDP(ドルベース)」である。これに関しては、内閣府が毎年末に発表する「国民経済計算年次推計(フロー編)」に掲載される「主要国の一人当たり名目GDP」表があり、その最新データ(16年12月22日発表)を見ると、中国は8,028ドル(2015年)であった。一方で、日本は34,522ドル(同)、米国は56,066ドル(同)であり、中国は米国の7分の1、日本の4分の1程度に止まっている。つまり、中国は発展著しいとは言いながらも、これらの計数から見る限りは、その国民は、日米等の先進諸国の国民と比べるとまだまだ貧しいように見える。
 しかしながら、中国の場合、こうした統計指標だけではその生活水準や豊かさを語れない固有の事情がある、と言うべきであろう。それは、以下の3つである。一つ目が、上記の数値は「全国平均」に過ぎないことである。中国の場合、経済発展に伴い富裕層と貧困層との格差が著しくなっているが、格差が著しいほど「平均」は意味をもたなくなるものであり、中国における個々人の生活水準の実態を知る上で、「全国平均」は参考程度の意味しかないことに留意すべきであろう。二つ目が、為替レートの問題である。「一人当たり名目GDP」は各国比較のためにドルベースでの算出が不可欠であることから、為替レートに大きく左右される。仮に、人民元の対ドルレートが実力よりも安過ぎるとしたら、上記の数値(ドルベース)も過小評価されている可能性がある。例えば、いわゆる「ビックマック平価」で計算した中国人民元の対ドルレートは、現実の市場レートと比べて約5割も過小評価されている。そして、ビックマック平価こそが長期的な実力ベースの為替レートだとすると、それにより計算した中国のドル建ての「一人当たり名目GDP」も一気に倍増することとなる。そして、三つ目であるが、これが最も深刻な問題と言える。それは、国民所得統計などの中国の「公式統計の信憑性」に関して、かねてより疑問が呈されている点である。
 このようにして、中国人が豊かになったかを国際比較する上で、「一人当たり名目GDP」の数値では限界があることは間違いなさそうである。ただ、内閣府の上記統計は、各国ごとに過去20年の数値も示しており、中国について見ると、1996年には709ドルに過ぎなかった一人当たり名目GDPが、2015年には8,028ドルと、20年間に11倍強も急増している。その一方で、同じ20年間に日本人の一人当たり名目GDPの数値は38,446ドルから34,522ドルと、1割強の減少である。つまり、長引く景気の低迷を背景として、日本人の豊かさや生活水準も低迷を続けてきた一方で、中国人は日本人に急速にキャッチアップしてきた事実が推測できるだろう。
 なお、「一人当たり名目GDP」の指標は客観的なデータであるが、これに加えて、ある途上国に行った際の、「その国の首都の街並みが何年くらい前の東京か」、の印象からも、そこの国民の豊かさが推測できるのでは、と筆者は考える。例えば、カトマンズ(ネパール)は明治半ばくらいの東京、ビエンチャン(ラオス)は戦前の東京、そして、筆者が2年間滞在したシンガポールでは東京とほぼ同等、又は東京よりも先行しているとの印象をかつて受けた。
 では、中国はどうか。10年ほど前であるが、「今の中国は何年前の日本か」、の質問への回答として、「40年前説」がしばしば唱えられた。その根拠の一つが夏季五輪や万博に関する開催の時期であり、日中間でほぼ40年の開きがあった(五輪は東京が1964年で北京は2008年)。では、「バブル経済」に関してはどうか。わが国では1980年代後半にバブルが発生したが、中国でも、海外送金の規制強化などで国内のマネーが不動産に集中し、株価も16年初めの底値から再上昇に転じているのが足もとの状況である。また、民間債務の対GDP比が200%超と、日本のバブル末期の水準にある。日本でのバブル崩壊の始まりは1990年代初頭であった。中国経済に関する最大の懸念材料であるバブル崩壊が近未来に起きるとなると、日本より約30年遅れ、ということになる。
野間修

【略歴】 
神戸大学法学部卒業。財務省(旧・大蔵省)に入省し、主に国際金融局にて、税・財政、金融検査官、米国経済、国際通貨基金(IMF)や国際収支、ODAなど、幅広い分野の実務に従事。シンガポール国立大学にて2年間の客員研究員も。財務省退職後は宮崎公立大学地域研究センター主任研究員に就任し、地域経済の研究に従事。地元ラジオ経済番組への定期出演や市民向けの金融セミナーの講師役も。
2017年3月、惜しまれながらSBI大学院大学を退官。大学創立メンバーの一人で、在任時は「国際金融論」「金融概論」を担当し、最新の講義データと優しい物腰で多くのファンを持つ。
大学1年の時、武道館コンサートに行き、リバプールに三回訪問するなど、長年のビートルズマニア。
野間先生