野間先生金融ブログ

私たちの家計はどれくらいの金融資産を保有しているか

家計部門の金融資産
「貯蓄から投資へ」が叫ばれているが、私たちの家計はどれくらいの金融資産を保有しているものか。その手掛かりとなる統計の代表が、日銀が四半期ごとに発表している「資金循環統計」(注1)の中の「家計部門の金融資産残高統計」(注2)である。そこで、日銀が6月27日に発表した資金循環統計(2017年1~3月期)のうちの家計部門の金融資産残高を見ると、2016年度末(17年3月末)は前年同月比2.7%増の1,809兆円となった。年度末としては比較可能な2004年度以降で最高額である。ただ、四半期ベースで見ると、16年12月末には1,815兆円と最高額を更新し、また初の1,800兆円超えも達成したが、17年3月末の計数は6兆円の微減となった。例年1~3月期は賞与支給月を含まないことからフローで流出超過となる傾向があり、今回(17年3月末)もそれを反映して、昨年末(16年12月末)比では微減となったものである。
 17年3月末の金融資産残高を項目別で見ると、現・預金の残高は対前年比2.3%増の932兆円に達した。家計部門の現・預金残高は、将来への不安と根強い節約志向から、2007年3月末以来、41四半期連続で前四半期を上回り続けており、家計が手元に資金を積み上げ続けている状況を示している。現・預金以外の項目では、保険・年金等が1.0%増の522兆円、株式等が7.9増の181兆円、投資信託も7.2%増の99兆円であった。株式や投資信託に関しては、昨年後半から株価が持ち直し、資産価値を高めた結果である。
 家計部門の金融資産残高に関し、「貯蓄から投資へ」の観点から特に注目されるのが、その内訳に占める現・預金の割合である。上記の通り、17年3月末では、残高の1,809兆円のうち現・預金が932兆円の51.5%と、過半を占めている。その一方で、株式等と投資信託の合計は15.5%に止まっている。この点につき、米国の家計はどうか。日銀は金融資産残高統計の一環として、家計の金融資産構成に関する日米欧の比較図を示しているが、それによると米国の家計の場合、現・預金は13.9%(16年9月末)、株式等と投資信託の合計は46.1%(同)であった。つまり、「貯蓄」と「投資」の割合が日米では真反対の関係にあり、わが国では政府が標榜するほどには「貯蓄から投資へ」が進展していないことを示している、と言える。
 それでは、「一世帯当たりの金融資産残高」はどれくらいか。日銀は発表していないが、上記の統計に基づき「一世帯当たり金融資産残高」の試算は可能である。そこで、わが国の総世帯数を5,700万として試算してみると、一世帯当たりで3,200万円(1,809兆円÷5,700万世帯)の金融資産を保有している計算となる。しかしながら、これは、私たちの生活実感から言うと、大き過ぎる数値であるように思える。その理由であるが、主に以下の2つが指摘できる。一つ目が、1,809兆円の中には、個人事業主の保有する事業性資金をも含んでいる点である。二つ目が、1,809兆円の中には、「保険・年金等」(注3)という、私たちにとって通常は個人金融資産としては認識しにくい資産も含んでいる点である。
 この「一世帯当たり金融資産残高」に関しては、公的な統計が二つある。その一つが、総務省が毎年、発表している「家計調査報告(貯蓄・負債編)」であり、17年5月26日に発表済みの「2016年平均結果速報(二人以上の世帯)」によると、一世帯当たりの貯蓄(預貯金、生命保険、有価証券など)の平均残高は1,820万円であった。これは前年比で0.8%の増加であり、4年連続の増加である。また、貯蓄保有世帯の中央値では1,064万円であった。もう一つの統計が、「金融広報中央委員会」(注4)が毎年、発表している「家計の金融行動に関する世論調査(二人以上世帯調査)」である。同委員会が16年11月4日に『知るぽると』で発表した2016年の調査結果によると、一世帯当りの金融資産の保有残高は平均で1,078万円、中央値400万円であった。なお、同調査は、「金融資産を保有していない」、と回答した世帯の割合が30.9%にも達したことも示している。本調査の対象世帯数は約8,000であるが、そのうちの3割強もの世帯が金融資産の保有額がゼロ、と回答している点にも十分に留意すべきもの、と言えよう。
 上記のように、一世帯当たりの金融資産残高に関しては、日銀の「家計部門の金融資産残高統計」をベースにした試算値よりも、「家計調査報告(貯蓄・負債編)」や「家計の金融行動に関する世論調査」が発表済みの数値の方が生活実感に近い結果を示している、と言えそうである。それでも、3統計に共通して表れているのが、家計の金融資産全体に占める現・預金の割合の高さ(5割~6割)である。少子高齢化と財政の深刻化で、国民は「自助努力」が今後益々必要になり、政府も「NISA」や「iDeco」を通じた国民一人一人の資産形成を促しているが、現・預金の割合の高さを見ると、自助努力も資産形成も道半ばであることが明らかである。金融教育の強化を通じた更なる「貯蓄から投資へ」が望まれる。

野間修

【略歴】 
神戸大学法学部卒業。財務省(旧・大蔵省)に入省し、主に国際金融局にて、税・財政、金融検査官、米国経済、国際通貨基金(IMF)や国際収支、ODAなど、幅広い分野の実務に従事。シンガポール国立大学にて2年間の客員研究員も。財務省退職後は宮崎公立大学地域研究センター主任研究員に就任し、地域経済の研究に従事。地元ラジオ経済番組への定期出演や市民向けの金融セミナーの講師役も。
2017年3月、惜しまれながらSBI大学院大学を退官。大学創立メンバーの一人で、在任時は「国際金融論」「金融概論」を担当し、最新の講義データと優しい物腰で多くのファンを持つ。
大学1年の時、武道館コンサートに行き、リバプールに三回訪問するなど、長年のビートルズマニア。
野間先生