野間先生金融ブログ

日本初のペイオフ発動事例で、大口預金のカット率が4割に

ペイオフ
 2010年に破綻した日本振興銀行は、わが国で最初にペイオフが発動された銀行である。このペイオフ発動事例に関して、先日の5月23日付けの日本経済新聞は、同行の大口預金者に対する預金カット率が4割であった、と報じている。このペイオフであるが、10数年前は経済金融分野のトップニュースとして、連日のように報じられていたものである。それと比べると、先日の報道は地味な扱いであったが、大口預金者の立場からわが国銀行の将来を見た場合、先日の報道には簡単に読み流すわけには行かない重要なメッセージが含まれており、ペイオフ発動の意味を改めて整理してみる必要がある、と言えるのではないか。
 そこで先ず、ペイオフとは何か、である。わが国では、1971年に預金保険制度がスタートした。これにより、銀行が万一破綻した場合、預金の一定額(今日では元本1,000万円とその利息)までの払い戻しが保証されるようになっている。この一定額までの払い戻しが「ペイオフ」であり、ペイオフには「大口預金の一部カット」の恐れが元々、付きまとうものである。それでも、1980年代末頃までは、「『護送船団方式』」により、金融当局が銀行の経営破綻が起きないように事実上、保障していたことから、ペイオフ(=大口預金の一部カット)も実際上は心配されることはなかった。
ところが、バブル崩壊後の1990年代半ばより弱小金融機関での経営破綻が現実化し、大口預金の一部カットの恐れも急激に高まった。そこで、金融当局は社会不安沈静化のために1996年より5年間、ペイオフを凍結する形で預金を全額保護する措置を採ったのである。そしてその後も、ペイオフ凍結を2年間、延長するなどしたが、2005年度より決済性預金を例外に、ペイオフ凍結が全面的に解除された。その結果、国民(預金者)には、「危ない銀行」を自ら見分ける能力など、金融リテラシー向上の必要性が叫ばれるようになり、同年度から政府による「金融教育」キャンペーンも始まった。こうして、ペイオフが全面解除された2005年度が「金融教育元年」と言われるようにもなったのである。
 このようにしてペイオフは凍結解除(再開)されたが、2003年11月に破綻した「足利銀行」に対しては、金融庁は『システミック・リスク』のおそれ」を理由に、ペイオフを発動しなかった。その一方で金融庁は、2010年9月に破綻した「日本振興銀行」に対してはペイオフを発動し、これがペイオフの最初の発動事例となった。ペイオフを発動してもシステミック・リストのおそれはない、と判断したことによる。同行に対するこのペイオフ発動の意義であるが、ペイオフが本来持っている、預金者に対しては「危ない銀行への注意喚起」を促すと同時に、銀行経営者に対しては「モラル・ハザード」を防止する機能を、ペイオフの初発動でようやく発揮できた点にある、と言えよう。
 こうして、ペイオフが初発動された日本振興銀行であるが、同行の精算機関である日本振興精算株式会社の発表(5月19日)によると、同社が大口預金者への全3回にわたる弁済を終了したことで、5月2日にペイオフの手続きが終了した。同行の破綻からペイオフの終了手続きまで6年8カ月を要したことになる。このニュースで一番注目されるのは、破綻金融機関の財産状況によって左右される大口預金(1000万円超の預金)のカット率であるが、本件の場合、39%と約4割であった。金額では41億円(破綻当時の3000人強の大口預金者が保有していた大口預金の総額105億円の39%)のカット額である。
 脱デフレをほぼ達成した現在、10数年前と比べて、わが国の金融システムは非常に安定しており、信用組合のように不良債権の比率が高い業態でも経営危機からは程遠いように見える。そして、地銀の合併・統合のニュースこそ頻発しているが、近年は金融機関の破綻を聞くことは皆無である。しかしながら、少子・高齢化の進展や利ざや縮小の影響もあって特に地方の金融機関の経営に関しては、大きな将来不安が囁かれているのが実情である。この結果、銀行の経営破綻とペイオフ発動がトップニュースとなってしまう時代の再到来が懸念される。日本振興銀行の事例では大口預金のカット率は4割に止まったが、将来的には、カット率が4割を大きく上回るような深刻な破綻事例が生じないとは限らない。日本振興銀行のニュースは、私たち預金者に大きな警鐘を鳴らしている、と言えよう。
野間修

【略歴】 
神戸大学法学部卒業。財務省(旧・大蔵省)に入省し、主に国際金融局にて、税・財政、金融検査官、米国経済、国際通貨基金(IMF)や国際収支、ODAなど、幅広い分野の実務に従事。シンガポール国立大学にて2年間の客員研究員も。財務省退職後は宮崎公立大学地域研究センター主任研究員に就任し、地域経済の研究に従事。地元ラジオ経済番組への定期出演や市民向けの金融セミナーの講師役も。
2017年3月、惜しまれながらSBI大学院大学を退官。大学創立メンバーの一人で、在任時は「国際金融論」「金融概論」を担当し、最新の講義データと優しい物腰で多くのファンを持つ。
大学1年の時、武道館コンサートに行き、リバプールに三回訪問するなど、長年のビートルズマニア。
野間先生