教員ブログ

社会をよくする救世主?!

起業
専任講師 斎藤 槙             

●社会をよくする救世主?!●
私はSBI大学院で『企業の社会責任(CSR:Corporate Social Responsibility)』を教えている米国ロサンゼルス在住の教員です。「企業が果たす社会的な役割は何か?」を長年テーマに仕事をしています。

そんな中、ここ数年は、特に「社会起業家(ソーシャル・アントレプレナー)」に注目しています。一寸おこがましいですが、もしかして、「社会をよくする救世主かもしれない」と考えるようになりました。特に2つの点に希望を見出しています。

1つ目は、現代の社会起業家が、「働く」という行為を単に収入を得る手段としてだけでなく、自己実現の場だと考えている点です。

日本でも米国でも、その他の国でも、経済が成長している時は、「お金を稼ぐ」ことが至上の目標になりやすいのではないでしょうか。しかし、景気が低迷期に入ると、金銭的目標達成の空しさなどが見えてきて、お金を稼いでも「満たされない」という思いが頭をもたげるようになります。

現代の社会起業家たちは、自分に与えられた人生を価値あるものにしたいという強い意欲のもとにスタートするのです。「人生の意義」を土台に据えて、その上に様々な価値観を築き上げ、その実現に向けて、積極的で主体的な生き方をしていこうとします。言い換えれば「いったい何のために生きているのか」と自分の存在を見つめなおし、その問いに対する答えとして事業を起こすのです。

2つ目は、社会や環境や人権など、地球規模の課題や地域社会が抱える課題に対して使命感を持って挑み、事業を行なっているという点です。事業の形態は、営利企業のこともあればNPO(非営利団体)のこともあります。しかしいずれにしても、社会起業家は、「社会をよくする」という目標に忠実に行動します。
【詳しくは「社会起業家〜社会責任ビジネスの新しい潮流」(岩波新書)をご参照下さい】
http://amzn.asia/3X3yPDT

●日本における意味●
日本において、社会起業家が担う役割は、特に大きいと思います。ややもすると固定化しがちな社会と経済のあり方、そして画一的になりがちな価値観について、あらためて考えるきっかけを与えてくれると思うからです。

例えば、偏差値を重視するあまり「没個」へと流れてきた戦後の教育。出る杭は打たれる「事なかれ主義」の行政や企業文化。集団のためなら自分を犠牲にするのは当然で、多数派にそむくと後ろ指を指される「村社会」。そして、環境保全や社会正義を反故にしてでも、自分の会社や組織を繁栄させようとする「利益至上主義」等々。

経済が発展してきた過程で、私たちが置き去りにしてきた大切な価値観を思い出させ、取り戻すきっかけと勇気を、社会起業家はもたらそうとしているのではないでしょうか。彼らの活躍を目の当たりにするにつけ、私たちは、「自分にとって大切な価値とは何か?」「それを守るために自分に何ができるのか?」という問いかけを余儀なくさせられます。

こうして、非常にポジティブな存在としてメディアなどでも取り上げられることが増えている社会起業家ですが、もちろん、すべてが追い風というわけではないのも事実です。必然とも言える悩みやジレンマに直面して、葛藤を続けている一面も、決して見逃せません。

「世界的な規模で事業展開するグローバル企業に対して、『社会に良いことをしている』というだけで競争してやっていけるのか?」
「ビジネスの繁栄と社会への貢献は、そもそも本当に両立できるのか?」
「社会や環境にやさしいビジネスというだけでニッチ産業と受け取られ、ビジネス界のメジャーと見てもらえず、投資家や取引先を探すうえで困難が付きまとう」
「NPOで働くことは尊い行為と思われているが、実際にはそれなりの見返りがなくては続かないし、優秀な人材も集まらない。そこでビジネス化を進めようとするが、今度は逆に、商業的との批判を浴びる結果になる」

社会起業家たちは、開拓者精神にあふれ、ポジティブな思考に長けた人たちです。それでもなお、こうして壁にぶつかり、悩んでいる場合もあるのです。成功を収めているように見えても、心は常に揺れ動いていることもあります。これが紛れもない現実なのです。

●日本社会の起爆剤としての存在●
長期低迷を続ける日本の社会にとって、社会起業家は大きな起爆剤です。ここでは説明を割愛しますが、特に東日本大震災後の被災地においては、社会起業家の活躍が目覚ましいです。
【詳しくは「被災地から日本をよくする100の方法〜ギフト・エコノミーの幕開け」
(斎藤槙著:NHK出版 http://news.nhk-book.co.jp/archives/617)をご参照ください。】 

戦後70余年の歴史を通じて、民間企業は、社会的責任よりも経済的責任を果たすことを期待されてきました。国の経済を繁栄させること、勤労者の生活を豊かにすることが、第一の目標でした。一方、社会的な事業を担ってきた行政やNPOの世界では、使命の追求を重視するあまり、運営効率やコスト意識などが希薄でした。極端に言うと、正しいことさえしていればいいのだ、という意識が強すぎたと言えるのではないでしょうか。

そして、この両者はこれまで、交わる機会がほとんどありませんでした。「企業さんのやることは……」「NPOさんのやることは……」と、双方を少し揶揄するような態度で眺めてきた、というのが現実でした。このために、社会のダイナミックな変革は、なかなか生まれにくかったのです。

こうしたなか、社会起業家は、今までの「あるべき」論を無視して、突破口を提案します。彼らが作り出した事業モデルと、彼らが発揮した行動力は、社会と経済の活性化という点で、きわめて示唆に富んでいます。社会起業家は創造性、柔軟性、そして力強さの点で、次代をリードしていく存在になると感じさせます。地球環境、社会福祉、南北格差といった様々な問題の複雑さがますます明らかになっている現代にあって、社会起業家の生き方や考え方は、私たちにヒントを与えてくれる存在と言えそうです。

●「ソーシャル・ベンチャー」に乞うご期待!●
この秋から私は大学で「経営者に学ぶベンチャー企業経営」というクラスを、他の頼もしい教員たちとスタートします。その中で社会起業家の活躍を「ソーシャル・ベンチャー」の切り口で講義する予定です。 ロサンゼルスでのリトル・トーキョー・サービス・センター(https://jp.ltsc.org/)という土地開発や社会サービスを手掛けるNPO(それはまるで「企業のようなNPO」)を紹介したいと思っています。
ご期待下さい!


今年37年を迎えるリトル・トーキョー・サービス・センターの創立者ビル・渡辺さんと。
1)今年37年を迎えるリトル・トーキョー・サービス・センターの創立者ビル・渡辺さんと。


ロサンゼルスのダウンタウン中心にあるリトル・トーキョーの様子
2)ロサンゼルスのダウンタウン中心にあるリトル・トーキョーの様子。