教員ブログ

アントレプレナー問題とニート問題の相似

アントレプレナー

客員教授 野間口隆郎



 開放感のあるロックを歌う女性ボーカルとして、思い浮かぶのは、渡辺美里さんですが、その代表的な曲はMy Revolution (作詞:川村真澄、作曲:小室哲哉)です。
そして、そのクライマックスが以下のフレーズです。

求めていたいMy Revolution

明日を変えることさ

誰かに伝えたいよ

My Tears My Dreams今すぐ

自分だけの生き方誰にも決められない

君とみつめていたい

My Fears My Dreams抱きしめたい


 この曲のように、「誰にも決められない自分だけの生き方をできている人」は、この日本にどれだけいるのでしょうか。

 2014年度IMDの国際競争力ランキングによると、日本は調査対象 59 ヵ国中で 1993 年までは第 1 位 の位置を占めていましたが、その後徐々に低下し始め、2014 年度は 21 位です。国際競争力がある国とは、世界から見られていません。こうした国際競争力低下の要因の一つとして同調査で指摘されているのが、アントレプレナーシップ(2014 年時点:55 位)です。企業家精神に欠けているというのが、日本に対する世界の評価です。

 ポーターはその著書“The competitive advantage of nations”( Free Press, 1990)において、日本企業におけるアントレプレナーについて次のように指摘しました。新しい世代の経営者たちが、日本の産業界の指導的立場にたとうとしている。多くの場合は、戦後に企業を設立した創業者やアントレプレナーとの交代である。これには、先見の明と創設の気風が失われ、官僚主義と保守主義が台頭するリスクが存在する。

 そして彼が指摘した日本の課題は以下でした。

①企業家精神を持つ経 営人材の不在、

②優秀な個を活かせない組織設計、

③組織の硬直化、

④システムアーキテクチャーの弱さ、

⑤全体戦略との整合性の曖昧さである。

 そして現在、日本は、失われた 20 年と言 われた時代を脱しきれず、その進むべき方向性や立ち位置などを明確に提示できず、閉塞感に覆われている。その原因の一部が深刻な雇用不安、個人所得格差・大都市と地方の地域間所得格差の拡大、大学卒業後も正規社員として働かず、日給や時給による給与を主な収入源として生計を立てているフリーターや、ニートの増加です。

 アントレプレナーの本質は積極的自由の獲得だという理論があります。企業内に留まり続けることは社会から様々なベネフィットを享受することができる。そのため企業はその中に留まり続ければ精神の自由は制限されるが、安心してその中で暮らしていけるといいます。このような企業内は企業内荘園制といわれます。その中では消極的ではありますが、一定の自由と安心があります。企業内で一定の自由と安心を得た状態から脱することができなくなったことを「ゴールデンハンドカフ(黄金の鎖)」と呼びます。
 ニートも、渡辺美里さんが歌うような「自分だけの生き方誰にも決められない」という「魂の自由」を引き換えにまでして、「ゴールデンハンドカフ(黄金の鎖)」を手に入れることを望んでいないと考えられます。しかし、自分自身で起業をして「リスク」をとることができません。そのため、家に引きこもって社会との関係を失ってしまいます。それに対して、アントレプレナーは「リスク」をとれる存在です。
 ニートが増えていて、アントレプレナーが減少していることは、「魂」とひきかえに「ゴールデンハンドカフ(黄金の鎖)」を手に入れることをよしとしない、が積極的に「魂の自由」を獲得するためのリスクと取れないということになります。渡辺美里さん的にいえば、「自分の生きかたは誰にも決められたくない」のですが「自分だけの生き方」を自分で決める意思決定のリスクを取る方法を知らないということになります。
アントレプレナーの減少問題が日本において酷い状況であることは、日本社会が、「自分だけの生き方」を自分で決める意思決定のリスクが非常に高い社会であることを示唆している可能性があります。

 ニートが増加していることには、「自分だけの生き方」を求める若者が増えてきたということであり、一時的には社会が混乱することではありますが、社会全体が変わる方向性の光が見えてきているともいえるでしょう。SBI大学院大学とそのMBA修了生がそのような社会を変革する中心となることが期待されています。